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ルームフレグランスの美的マニフェスト

パリのタイヤック=トゥアミ邸
「人間の問題はすべて、独り、部屋の中でじっとしていられないことに由来する」。こう語ったのは、17世紀の哲学者ブレーズ・パスカルです。

人間の問題点はさておき、21世紀を生きる私たちは、自宅を心地よい安らぎの空間に整えたいと常に願っています。

一戸建ての寝室またはリビングルームであれ、マンションの一室であれ、空間のインテリアもまた、そこで暮らす人の個性と美意識を反映するもの。

〈オフィシーヌ・ユニヴェルセル・ビュリー〉は、そこに漂う香りも、住人の美意識とエスプリに調和してしかるべきだと考えています。

そこで今回は〈ビュリー〉のルームフレグランスのコレクションを彩る、8つの類まれなる香りにフォーカス。

吊るして香りを楽しむフレグランスディフューザー〈ボワット・メタリック・オドリフェラン〉のほか、植物由来の蝋を使用したフレグランスキャンドル〈ブジー・パルフュメ〉や、エレガントな陶器のボックスに収められた〈アラバストル〉、セラミック製のペンシル型ディフューザー〈クレヨン・オドリフェラン〉、フレグランスマッチ〈アリュメット・パルフュメ〉など、コレクションには遊び心あふれる製品を展開。

それぞれの香りとリンクした、壮麗な空間のストーリーとともにご紹介します。

〈サクル〉の香りと

ルドルフ・ヌレエフの絢爛豪華たるアパルトマン

南仏アグドにあるローランス城は、ひょんなことから莫大な遺産を相続し、世界中を旅して美術品の蒐集家となったロマン主義的人物エマニュエル・ローランスが1898年に建てたものです。

古代エジプトを愛した大旅行家であり、ベル・エポック時代のギャツビーのような存在だったローランスは、自宅を象徴主義や東洋趣味、さらには古代ギリシャの影響を受けた、アール・ヌーヴォー様式の神殿のような社交場に変えました。

蓮とモクレンの花が絡み合う美しい壁画に飾られたその空間は、鮮やかな色彩あふれる万華鏡のよう。

オニキスの柱の間には、イタリアのデザイナー、カルロ・ブガッティが手がけた家具や、フランスの画家ルイ・アンクタンによる記念碑的なデッサンが並び、サルグミーヌ製の陶器を用いたバスルームや、ウジェーヌ・マレシャル・シマとテオフィル=イポリット・ローモヌリーによる幻想的なアール・ヌーヴォー様式のステンドグラスがはめ込まれたパネルなど、目を見張るような芸術作品が訪れる人の目を奪います。

城の船着場には2艘のヨットが停泊していて、ローランスは気の向くままにスペインやインド、さらには愛するエジプトの太陽を求めて遠出をしました。

そんな空間には、ローランスがこよなく愛したナイル川へのノスタルジーを誘う〈アレクサンドリー〉がうってつけ。レモン、ブラックカラント、ミントティーのアコードが贅沢なバニラの余韻を残します。

サクル

ハチミツと松が彩るジュニパーのインセンス、知的な香り

ジュニパーとハチミツの香りに満ちた戴冠式の記憶。ステンドグラスからそそぐ冬の太陽が金色の式典用帷帳に反射し、円柱や円蓋、象牙の彫像たちの敬虔な沈黙に光を落とす。曇った寒さに震える聖堂の身廊はフランキンセンスの香りで霧に包まれ、乳香とスギの香りが魂を甘く包み込む。

〈アレクサンドリー〉の香りと
アール・ヌーヴォーが香るローランス城

南仏アグドにあるローランス城は、ひょんなことから莫大な遺産を相続し、世界中を旅して美術品の蒐集家となったロマン主義的人物エマニュエル・ローランスが1898年に建てたものです。

古代エジプトを愛した大旅行家であり、ベル・エポック時代のギャツビーのような存在だったローランスは、自宅を象徴主義や東洋趣味、さらには古代ギリシャの影響を受けた、アール・ヌーヴォー様式の神殿のような社交場に変えました。

蓮とモクレンの花が絡み合う美しい壁画に飾られたその空間は、鮮やかな色彩あふれる万華鏡のよう。

オニキスの柱の間には、イタリアのデザイナー、カルロ・ブガッティが手がけた家具や、フランスの画家ルイ・アンクタンによる記念碑的なデッサンが並び、サルグミーヌ製の陶器を用いたバスルームや、ウジェーヌ・マレシャル・シマとテオフィル=イポリット・ローモヌリーによる幻想的なアール・ヌーヴォー様式のステンドグラスがはめ込まれたパネルなど、目を見張るような芸術作品が訪れる人の目を奪います。

城の船着場には2艘のヨットが停泊していて、ローランスは気の向くままにスペインやインド、さらには愛するエジプトの太陽を求めて遠出をしました。

そんな空間には、ローランスがこよなく愛したナイル川へのノスタルジーを誘う〈アレクサンドリー〉がうってつけ。レモン、ブラックカラント、ミントティーのアコードが贅沢なバニラの余韻を残します。

アレクサンドリー

ミントとジンジャー、カシスが寄り添い解き放たれるシトラスの香気

オニキスと翡翠を散りばめたタイル、レモンの木葉に注ぐ月明かり。熱帯の夜風に揺れるヤシの木。青いミントが香り立つ庭園を震わせる夜の驟雨。薄明かりのもと、天蓋に横たわるのは、曲線を描く刃と輝きをたたえた瞳。

〈ジェネロー・ダンピール〉の香りと
壮麗なヴィクトリアン様式

スコットランド・ブレーマーの5つ星ホテル「ファイフ・アームズ」の音楽室

ビロードの重厚なカーテンやラグジュアリー感あふれる壁紙、ウィリアム・モリスがデザインした織布地、彫刻が施されたマホガニー製の調度品、オリエンタルな絨毯、官能的な曲線を描くアームチェアなど……。

ゴシックとロココ、中世ヨーロッパのテイストを少しずつ取り入れ、深い赤と緑を基調としたロマン的なヴィクトリアン様式の空間では、19世紀後半にイギリスで興ったアーツ&クラフツ運動のインスピレーション源となった自然界の要素が、花や葉の植物的モチーフとしてあらゆる場所に散りばめられています。

ヴァーベナ、ベチバー、スミレで飾られたバラの魅惑的なノートを特徴とする〈ジェネロー・ダンピール〉もまた、ヴィクトリアン様式をうっとりと描き出す香りのブーケです。

ジェネロー・ダンピール

バラの甘さとローズマリーの抱擁、カシスのみずみずしさ

城、宮殿、宿屋の廊下に響きわたる楽しげな笑い声。扉を開いた寝からは勝利を予感する香りが漂う。床に横たわる裸の恋人たち、衣擦れの音、倒された籠、脱ぎ捨てられたままのドレスや制服、そのまわりに散らばる果実、ビロードのようなバラとスミレの花びら。

〈パテル・マテオス〉の香りと
チャールズ・レニー・マッキントッシュの白いヴィジョン

建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュの自宅を再現した「マッキントッシュ・ハウス」。

現在はグラスゴー大学付属ハンタリアン美術館の一部。グラスゴー派のリーダーであり、時代がアーツ&クラフツ運動からモダニズムへと移りゆくなかで新たな道を切り開いたスコットランド出身の建築家チャールズ・レニー・マッキントッシュ。自然界と日本美術から多大な影響を受けたそのスタイルは、幾何学とミニマリズムの痕跡をとどめています。妥協を許さない空想家であったマッキントッシュは、見事な建築物や、目で彼の作品とわかる家具によってウィーン分離派の芸術家たちから絶賛されたものの、生前にその功績が認められることはありませんでした。崇高な理想主義と、妻で画家のマーガレット・マッキントッシュが愛した淡色の花束にふさわしい〈パテル・マテオス〉の香りがベルガモット、ローズウッド、ムスク、インセンスとともに晴れやかな絵を描きます。

パテル・マテオス

潮風が運ぶベルガモット、レモン、ローズウッドの深遠な香り

春のごとく若々しい、湿り気をふくんだ緑の香り。野原に咲くは、朝日に茎を青くした、クローバーとサンザシの花。太陽が生垣を温め、小道に立ち並ぶ小高い草が、緑の焚き火のように輝く。土は表面から野原の向こうへと広がり、苔むした古い花崗岩を取り囲む。眠る羊の群れの、朝露にぬれたムスクの香り。

〈スミ・ヒノキ〉の香りと
ジャポニスムが息づくホイッスラーの孔雀の間

ジェームズ・M・ホイッスラー作「孔雀の間」(1876-1877年)

物語の始まりは1876年。アメリカの画家ジェームズ・マクニール・ホイッスラーのもとに、美術愛好家であり、ホイッスラーのパトロンでもあったアーサー・レイランドのロンドンの邸宅に中国磁器のコレクションを飾る部屋を作るという依頼が舞い込みました。当初レイランド邸を担当していた建築家のトーマス・ジェカイルが病に倒れたため、レイランド家から仕事を引き受けたことのある画家ホイッスラーが引き継ぐことになりました。ジャポニスムに大きな影響を受けたホイッスラーは、あふれ出る創作意欲にまかせて16世紀の青緑の金唐革に黄金の大きな孔雀を描きました。「デッサンや下書きはせず、少しずつ描き足すうちにだんだんと大きくなっていきました。青と金の調和が次第に拡大し、私は創作の喜びに没頭しました」。その後、ホイッスラーとレイランドの間には、この崇高な絵画と同じくらい壮絶な争いが勃発しました。報酬についての争いの最中、ホイッスラーは鍵を盗んでレイランド邸に侵入し「芸術と金——あるいはこの部屋の物語」と題された、戦う2羽の孔雀の絵を描きました。戦いの炎と理想化されたジャポニスムにふさわしい〈スミ・ヒノキ〉の燻したヒノキとお香の完成された香りが、聖なる神殿に浮かぶ雲のように立ち上ります。

スミ・ヒノキ

燻したヒノキ、サイプレス、シダーが醸し出すスモーキーな特徴ある香り

夏の雨に濡れる庄野の里、深い檜の森に漂う神聖な黒い煙炎とフランキンセンスの香り。幾年も焚かれた炎と煙を受け時を経た寺院の高貴な香り。絹、刀、巻物が眠る漆黒の杉の箱。杉と樟脳の、青々しい木々の香りに満ちた東海道の鳥居から望む無常なる俗世と秋の枯葉。

〈ルトゥール・デジプト〉の香りと
サンメッザーノ城のほとばしるオリエンタリズム

モロッコ風モザイクに彩られたサンメッザーノ城の「白の部屋」

イタリア・トスカーナ地方フィレンツェ近郊の田園地帯に佇むサンメッザーノ城は、16世紀のスペイン貴族キシメネス・オブ・アラゴンによって建てられました。

その後、19世紀中頃から彼の子孫のひとりによって50年近くの歳月をかけて全面的に改築・増築され、インドや中国、スペインの建築様式を取り入れたムーア建築の傑作に生まれ変わりました。

実際にそれらの地を旅したことのなかった城主の「東洋の夢」を実現させた65の部屋のひとつひとつは、広大な城の敷地内で焼かれた陶器のモザイクと文学の引用文で覆われ、「愛人の部屋」「鏡の部屋」「鍾乳飾りの部屋」といった詩的な名前がつけられています。

この城の主ならば、ロマンティックなジャスミンとアンバー、ムスクとローズの香調のうっとりするような〈ルトゥール・デジプト〉の香りが誘う空想上の旅を絶賛したことでしょう。

ルトゥール・デジプト

サンザシ、ジャスミン、ナツメグ、アンバーとバニラの余韻

廃墟を彷徨う神聖な香り。幾千年もの間、砂漠の太陽の下に佇む円柱と墓跡。アラバストルの壺と糸ガラスの小瓶。いにしえの秘技により時が止まっていたかのように香るのは、アンバー、安息香、複雑に絡み合う花々と珪化木の神秘。

〈カンパーニュ・ディタリー〉の香りと
サイ・トゥオンブリーのロマン主義的ポストモダニズム

1966年、写真家のホルスト・P・ホルストは、アメリカ生まれの画家サイ・トゥオンブリーが妻タチアナ・フランケッティと息子アレッサンドロとともに暮らしていたローマ風の宮殿の一角を占めるアトリエ兼住居を撮影するため、米VOGUE誌の依頼を受けてイタリアを訪れました。

ホルストは、大理石の胸像や帝国時代の家具といったネオクラシックな品々をはじめ、トゥオンブリーの大きなキャンバス、皇帝ネロの胸像、格子柄の床に置かれたゲルハルト・リヒターの作品など、あらゆる要素が考え抜かれた構図で撮影にのぞみました。

「ここではすべてがアート——さまざまなスタイルが渦巻く、ポストモダンのインスタレーションとなるのです」とトゥオンブリーは説明しています。

「私は、ほかのアーティストがすることをよく観察します。それを“インスパイアされた”と言うべきではないのでしょう。私は、こうした人たちの影響を受けているのではありません。アートは、アートから生まれるのです」。

ベルガモットとグレープフルーツのシトラスノートにシダーとサンダルウッドのウッディノートをブレンドし、パチュリでスパイスを効かせたフレグランスキャンドル〈カンパーニュ・ディタリー〉も、トゥオンブリーと同様にインスピレーションあふれる香りです。

カンパーニュ・ディタリー

ベルガモットとグレープフルーツの繊細な果皮の晴れやかな香りがウッディなオークとシダーに混ざりあう

レザー、樹皮、大地、松葉、夏の日差しを浴びた葉の香り。太陽が白い光を注ぐ平野を行き来するミツバチの群れ。ぬくもりに満ちた木陰。オークとヒマラヤスギの重厚な沈黙。触れ合う馬具と何かを待ち焦がれる蹄の音。装填前の銃の眩しさ。

〈アンニバル〉の香りと
アドルフ・ロースのモダニズム

プラハの「ミュラー邸」

建築家アドルフ・ロースが作り上げた空間は、モダン、アヴァンギャルド、ミニマリストのどのカテゴリーにも当てはまりません。

1870年にオーストリア=ハンガリー帝国ブルノ(現チェコ共和国)で生まれたロースは、のちに議論を引き起こした論考『装飾と犯罪』を1908年に発表。20世紀初頭のウィーンや当時のチェコスロバキアにて、アパートや住宅などの大きなプロジェクトを手がけました。

たとえばチェコのプルゼニでは、さまざまな高級木材からなる、シンプルかつラディカルな壮大な空間が特徴のブリュンメル邸を設計しました。この邸宅はオーナーのブリュンメル夫妻と同様に、ファシズムに続く共産主義時代を生き伸びました。

その後、ロースはプラハのミュラー邸を設計。 贅沢な質感のマホガニー材やビロード、淡い色彩にあふれたインテリアは、見事な模様の緑色の大理石が幾何学的に敷き詰められ、その美しさを際立たせています。

ロースはとりわけ無駄な装飾を削ぎ落とした簡素な美とライフスタイルの重要性を主張しました。

「私は、部屋に入る人々に、素材に囲まれていることを感じてもらいたいのです。それがどんな影響を彼らに与えるのであっても。彼らを囲む空間を意識し、素材や木材を見て、触り、官能的に感じてほしいと思っています」とロースは語りました。

そんな彼が理想とする官能的かつ力強い空間には、〈アンニバル〉の香りが最適。シダーとパチュリ、レザー、クミンとジャスミンの光のタッチに照らされた洗練された香調が美しい調和を奏でます。

アンニバル

ヒマラヤスギ、レザー、カシミアウッド、パピルスが奏でる、真冬の暖炉の香り、薪の音

古代都市カルタゴの地母神タニトに捧げられた燃える松葉の香りが、森の天蓋から望む星の舞う天空へと立ち上る。白い土をまとったカルタゴの将軍ハンニバルが跨る象の目覚め。積もったばかりの雪に消された冷たく青い残り火。夜明けを待つ凍てついた山を越えた軍隊は沈黙のうちに行進し、その盾と馬衣が暁の銀光に神々しく光り輝く。

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